剣道具には様々な仕様があります。
作り手のこだわりや工夫が反映されるところですが、自分好みの剣道具の仕様を考えてみるのも面白いですね。
剣道具を作ってもらう際などに本記事をぜひ参考にしてください。
基本仕様
剣道具において面・甲手・垂は布や革を縫い合わせた「布団」とその他の部品を組み合わせて作るので仕様を考える上では共通のものが多く、以下ではその解説をしています。
刺し方
剣道具は布団の部分を「手で縫うか」「ミシンで縫うか」の違いによって大別されることが多いです。
〈手刺〉
ミシンでは縫えない分厚い芯材を手作業で縫い合わせて締め上げることで馴染みや衝撃吸収性に優れ、点で出る縫い目が見た目にも美しい仕立てです。
伝統的かつ機能性にも優れるためどんな方にもおすすめできますが、価格は手間の分相応に高くなるため成長期の少年剣士や手入れが十分にできないようなハードな使い方をする剣士には向きません。
また、安価なものは芯材も薄いことが多く、このような防具は「ただ手で縫っただけ」で手刺本来の良さはあまり感じられないでしょう。同じような芯材を縫うのであればミシン刺と見た目以外にほとんど違いは出ません。
〈ミシン刺〉
ミシンで布団を縫う仕立てで、手刺に比べて安価なため、幅広い予算帯に対応できます。
刺し幅
布団をどの程度の細かさで縫うかということで、手刺では一分から二分五厘、ミシン刺しでは3~10mmの刺し幅が一般的です。
刺しが細かくなれば布団は硬くなる傾向があるので、性能と見た目のバランスを考えると手刺では二分刺し、ミシン刺では6mm刺しが選ばれることが多いようです。
手刺防具の刺し幅についてはこちらも参考にしてください。
織刺か紺革か
剣道具には補強や装飾などの意味で革などが張られ、この素材の違いも機能性や印象に大きく影響を与えます。
〈織刺(おりざし)〉
道着と同じ素材です。布なので軽く、汗も乾きやすいので扱いが比較的簡単です。
見た目も素朴な風合いになります。
〈革張り〉
藍染めの鹿革を張った「紺革仕立」が一般的で、高い耐久性と高級感のある見た目が特徴です。
他にも牛革や人工皮革を使った仕立もありますが、価格を抑えるために採用されることがほとんどで見た目の美しさや風合いでは鹿革に劣ります。
〈刺地〉
「つめ刺」「刺子」などとも呼ばれ、手で刺した織刺を使った仕立です。
手で刺したことによる圧倒的な風合いを感じることができますが、機械刺の織刺に代用され職人もいないため手に入れることはほぼ不可能な素材です。
革張りのデザイン
主に紺革仕立の剣道具において、見た目の美しさのために様々なデザイン性を取り入れて革張りをすることがあります。
寺社仏閣に用いられるような伝統的なデザインは美しいですが、いたずらに派手さや豪華さを追求したようなものは違和感を感じることもあり、ファッションなどと同様に飽きがきてしまうこともあります。
また、革の部品を作る際には型を使って抜くことが多く、職人さんやメーカーが持っている抜き型の中から選ばないと対応できないというケースも多いです。
面の仕様
面金
〈(オール)チタン面金〉
鉄の合金であるチタンは軽さと強度を兼ね備えており、面金一本一本が細く作れるため広い視界とシャープな見た目が実現できます。
色味も金属らしい渋い光沢があり、面に一気に高級感が出ます。
〈ジュラルミン面金〉
アルミの合金であるジュラルミンはチタン以上に軽く、軽い面が欲しい場合は必須の仕様と言えます。
色味はやや白っぽくなってしまい、軟らかいので傷・凹みも目立ちやすいため、手刺防具や高級なミシン刺防具にはあまり使われません。
耳革
「力革」「ビンタ革」などともいわれ、綴じた箇所の補強やデザイン性の意味があります。
〈紺革〉
紺革仕立の防具に合わせると統一感のある見た目になります。
〈クロザン革〉
織刺仕立の防具によく合います。
面垂 ー刺し方ー
〈延べ刺〉
面布団の端から端までを同じ幅で縫う仕立です。
刺しの細かい防具はこの刺し方が多いです。
〈グノメ刺〉
延べ刺の半分の幅で(細かく)縫う仕立です。
布団がより薄く・硬くなるので二分や6mmなどの柔らかい布団でも面垂のシルエットが綺麗になりやすいです。
〈ナナメ刺〉
文字通り斜めに縫う仕立です。
面垂が肩に沿って曲がりやすくなるとされていますが、柔らかくなるということはだらっと垂れてしまう可能性も高くなるため手刺防具などではあまり採用されません。
面垂 ーヘリー
〈袋縫い仕立〉
ヘリに革が付かない仕立で、すっきりした印象になります。手間がかかるので高級な防具に用いられることが多いです。
〈ヘリ革付き仕立〉
ヘリを革で綴じ、角に革飾りを施した仕立で、上品で落ち着いた印象になります。
アゴ
「突き垂」と言われることもあり、喉を打突から守ると同時に飾り(しょっこう(蜀江・曙光など))によって面の印象に大きく影響する部位です。
この飾りは廉価な防具でも選べることが多いですが、やはり派手なものよりは落ち着いた色合いやデザインのものが特に最近は好まれているようです。
内輪・天・地
〈木綿〉
さらっとした肌触りで汗の渇きも良いです。
〈ビロード〉
ふわっとした肌触りが特徴です。汗をかきやすい方だと少し扱いづらいかもしれません。
〈化学繊維〉
肌触りや汗の渇きを追求した素材で使用感が良いです。
ただ見た目に特徴がある場合が多く手刺など伝統的な雰囲気を重視する場合にはやや不向きです。
裏革
内垂(臆病垂)の擦止めや飾り糸の裏側に張られる革のことです。
紺革・・・シンプルな印象にまとまり、高級な防具によく用いられます。
茶革・・・燻した鹿革の茶色が紺反とのコントラストを成し、玄人好みのアクセントを演出します。
緑小桜・・・昔ながらのデザインでクラシックな印象にまとめたい方におすすめです。
印伝・・・鹿革に漆で紋様を施した印伝の高級感は抜群です。
まとめ
本記事では剣道具全体の基本仕様についてと面の細かい仕様について見てきました。
作り手の立場になれば「おまかせで」と言ってもらった方がやりやすいことも多いでしょうが、どこか一か所に変化を持たせるだけでも個性的な防具に早変わりします。
もちろん「この仕様とこの仕様、どっちにしますか?」と選択肢がある場合もあると思いますから、その時になって焦らないように確認しておくのもいいですね。
細かい仕様の違いがあることが分かると、周りの剣友の防具の違いも気になるようになり、「あ、これ良いな」という発見があるかもしれません。
奥深い剣道具の世界に足を踏み入れてみるのも剣道の一つの楽しみ方です。
この記事が皆さんのお役に立てば幸いです。
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